メタモルフォーゼの縁側 感想(ネタバレ有)

JKとおばあちゃんがBLで知り合う映画が今やってて、めちゃ面白いので見下さい!!

安宅研ではゼミの始めにみんな一言ずつ言う文化があり、1人の文学少年がこう叫んでいた。各地の映画館でやってるらしいので見に行こうと思い、劇場に足を運んだ。

大まかなあらすじ

女子高生のうららと75歳の高齢者である雪がBL漫画を通して知り合い、交友を深めていく。うららは冴えない感じの生徒役であり、将来やりたいことも決まっていないという具合。
しかし、BLの良さを縁側で雪と語り合う内に、自分が筆を取ることを暗に唆され、同人即売会に出品を決意する。漫画家としての彼女が真剣に生き始めた瞬間だった。
ところが、当日雪が腰を痛めてしまう。うららはただ一人会場に足を運ぶが、周囲のレベルに圧倒されたこと・1人では心細いことなどが起因し、会場の片隅で落ち込んでいた。そこに幼馴染の高橋が現れ、1冊を買っていく。一方その頃、なんとか知り合いの車で会場付近まで来ていた雪は推していたBL漫画の作者にうららの作品を売ることになる。2人はその後合流するが、うららのやりきれないシーンが描写される。
2人の推していたBL漫画が遂に完結。サイン会が開催されることに。雪とうららは別れてサインをもらい、その後カフェで合流する。お互いのサインを撮りあうなどの動作を行い、2人の絆が永遠に続くことを予期させる。

率直な感想

すごい設定だな..というのが率直すぎる感想。そして、うららの描写がとにかく現代っぽい。進路を決め、それに向かって努力するライバルと対照的にやりたいこともなく、漫画を読み耽るうらら。漫画を書くことを決意し、それに向かって必死に努力する。しかし、数ヶ月の努力では周りに勝てるはずもなく..という現代の無力感の原因が描写されているように思う。また、キャスト陣がとても豪華だが、派手に広報されているイメージもなく、上映期間が非常に短いのは何故なのか疑問に思った。

考察 -失われた縁側-

さて、うららのような無力感を抱く少女が現れるのは何故だろうか。その1つの原因は「縁側が失われた」ことにあると思う。従来であれば、縁側はその住民と近所の人が何気ない会話を交わす、コミュニティにおけるノードの役割を担っていた。ところが、高度経済成長における団地の開発や核家族の増加・都市部への人口集中などの様々な要因によって、縁側は失われていった。その結果、コミュニティから人がどんどん切り離された。そして、人は限られたコミュニティの中で存在意義を見出すことは不可能になり、人類全体の中でアイデンティティを形成する必要性に迫られているのだと考える。筆者はその点を「縁側」という題に込めたのではないだろうか。

考察 -0か1か-

無力感のもう1つの原因は現代が非常に成果主義型の社会だからだと考える。すなわち、うららのように努力をしたとしても、映画のように推しの作者に自分の作品を手に取ってもらえることはまずなく、有象無象の中に埋もれていくに過ぎない..そのプロセスや思い入れなどは一切評価されず、資本・技術のコンテンツ戦争には敵わない..そのような資本主義の特性も垣間見える。

何が解決策か

上記2点「コミュニティの崩壊」と「成果主義型のコンテンツ市場」への解決策は何だろうか。実は、後者の解決をすることが、前者の1部を解決することだと考えている。では、順を追って説明していこう。
「コミュニティの崩壊」は人と人が分離され、人類という集団の中に、個人として押し込められることに起因する。リアルであれば都市に、サイバー空間であればオープンなSNSがその筆頭だ。したがって、それらの逆を行うことが問題の解決になるはずだ。つまり、リアル側は都市のオルタナティブである風の谷プロジェクト、サイバー側は鍵垢などで繋がったSNSやDiscordなどのクローズドなSNS(後者はそこをまだ多くの人が本当の居場所=コミュニティと感じるには技術的に不十分で、その発展を促す必要がある。)
しかし、それらはあくまでもコミュニティを構成するための技術に過ぎない。コミュニティで大事なのはそこがどのような世界であり、どのような信条を尊び、どのように生きれるかということだ。これはまさしく、物語の世界観に他ならない。
コミュニティを再び取り戻すためには、様々な世界観が存在し、それを技術的に実装する必要がある。後者は近年様々な個人や団体が取り組むようになったが、世界観を構築することやその紡ぎ手を支援することを、我々はまだ本気で取り組めていない。
そこで、0.1の時から作り手を応援できるプラットフォーム、複数のメンバーが得意分野を持ち寄って世界観を醸成するプラットフォームが必要なはずだ。私はそのようなものを作りたいと思っている。

最後に

非常に面白い映画にも関わらず、パンフレットは売り切れ、グッズはなし..というのが寂しかったので、ついつい感想のポストという形で応援しようと思い、そこそこの文章量を書いていた。再上映やストリーミングの配信があれば、ぜひもう1度見てみたい。

公式サイト


参照

©️2023 Y.A.